第14章 製品委員会
製品開発の重要意思決定をタイムリーに行う
たとえ中小企業においても、意思決定を行うことはたいてい時間がかかりフラストレーションのたまるものである。製品開発企業であれば、重要なステークホルダーと意思決定者が一同に会してタイムリーに情報を共有して製品決定を行うためメカニズムを必要としている。
これを可能にする私のお気に入りの方法が、製品委員会を設置することである。
一般論としては、私は委員会やたいがいのミーティングというものが好きではない。しかし、私が思うに、製品委員会はとても価値があり、これを利用すれば製品開発プロセス全体がかなりスピードアップする。これは、重要な意思決定者の全員が、製品を市場に出すために必要とする意思決定を行うという明確な目的をもって集まるからだ。
難しいのは、製品委員会において、経営に対して製品意思決定プロセスを可視化・監督可能にすることと、同時に、権限を与えられた部下による製品デザインなどの細部に対して重役が口出しをしないようにすること、これら両方を達成することだ。
多くの会社にはこの会議が違った形で存在するが、ここで説明するコンセプトはeBayの元COOであるMaynard Webbによるものだと思う。私は、製品委員会の役割を見直し効率的にするようなサービスをいくつかの企業向けに提供したことがある。
目的
製品委員会の目的は、製品に関する戦略方針を設定し、資金を含めた経営資源を配分し、自社製品群全体を監督することである。 委員会は会社の事業戦略を設定しようとするのではなく、むしろ事業戦略を前提にして、事業性の高い製品戦略を考案することだ。委員会の下す決定は事業の成功に直接影響を与えるだろう。
構成メンバー
製品委員会は、典型的には、さまざまな部署から集められた製品開発担当マネージャーによって構成される。 どの会社にも独自の考えがあるが、具体例は以下である。
CEO(最高経営責任者)、COO(最高業務責任者)もしくは担当部門の部門長
プロダクトマネジメント担当部門長
ユーザーエクスエクスペリエンス担当部門長
マーケティング担当部門長
エンジニアリング担当部門長
サイト運用担当部門長
カスタマーサービス担当部門長
この手の委員会であれば同じだが、ミーティングが効果を発揮するかどうかはたいていリーダーの会議運営能力によって決まる。リーダーは委員会の目的に沿って、課題を整理し、決定を促すのが上手い人でなければならない。たいていは、製品審議会のリーダーは、製品開発のトップ、または特に中小企業であれば社長が担う。
メンバーは主要部門の代表者とし、10名以下に保つこと。もしもっと多くの人がメンバー入りしたがっている場合は、彼らはそれぞれ誰が自分の意見を代弁してくれるのかを知ること。たとえば、販売担当バイスプレジデントはマーケティング担当バイスプレジデントに意見を代弁してもらうかもしれないし、QAの部門長はエンジニアリング担当バイスプレジデントに意見を代弁してもらうかもしれない。
役割
製品委員会は製品をデザインしたり作ったりするグループではない。このグループは、製品開発プロセスを通じて製品開発の流れを監督し、必要となる重要な決定を行わなければならない。
製品開発において、製品委員会がレビューや意思決定を行う主に4つのマイルストーンがある。
マイルストーン1:提案された製品戦略と製品ロードマップをレビューし、特定の製品リリースのための市場性評価を始める。すなわち、深堀り調査すべき製品市場機会を選択する。
マイルストーン2:製品の市場性評価と提案をレビューし、問題解決策を「見い出す」作業に進めるかどうかを決定する。
マイルストーン3:製品プロトタイプ、ユーザーテストの結果、詳細なコスト予測をレビューし、エンジニアリング工程に進めるかどうかを決定する。
マイルストーン4:最終製品、品質保証結果、販売開始計画、市場への影響の評価をレビューし、販売開始をするかどうかを決定する。
備考
・中小企業の場合はひとつの製品委員会があらゆる製品を網羅する。大企業の場合は製品審委員会は事業単位事に設置される。
・この委員会では、小さなアップデートや修正をレビューする必要はない。ビジネスに重要なマイナーチェンジ(たいていはコンテンツ絡みのもの)であれば優先処理されるべきだ。
・製品デザインセッションではないので、もし製品に問題があれば製品開発チームがその問題に取組み、解決したら製品委員会に戻すべきだ。
・ マイルストーン2の段階で、たいていコストのざっとした見積もりがみえてくるが、この段階では問題解決方法がまだ描けていないので、この数字をあまり真剣に捉えてはけいけない。この数字を「低い、並み、高い」程度で評価すれば、エンジニアリングにとっては十分意味がある。しかしながら、マイルストーン3での時間とコストは詳細に予測されるべきで、製品開発チーム全体がコミットする準備ができるようなものであるべきである。
・この委員会がポリシーの問題(例えば、製品寿命ポリシー、プライバシーポリシーなど)に取り組むべきか決めなければならい。しばしば、この委員会はそうした課題に取り組むが、 この問題は、しっかりコントロールしないと時間ばかりかかって答えのでない議論になりがちだ。ポリシーの問題を議論する場合は製品開発全体の進捗をを監督するという役割を損なわないこと。
・ミーティングの頻度は進行中の製品開発の本数による。1か月に1時間の集まりでよい場合と、1週間に2時間会わなければならない場合もある。
・製品委員会がすでに販売開始された製品の業績をレビューすることは有益な場合がある。製品委員会は、販売開始後3~6カ月に業績に関するプレゼンテーションを要求するかもしれない。このような事後検証は、どの投資と決定がよかったか、そしてなぜよかったか、委員会が理解を深めるために役立つ。
・理想的には、プロダクトマネージャーが担当製品について委員会にプレゼンテーションするべきである。プロダクトマネージャーがしっかり準備をしたか、提案内容が妥当かどうかを確かにするために、上司はそのプレゼンテーションの準備を手伝わなければならない。賢いプロダクトマネージャーであれば、製品委員会のメンバーに対して個別に事前説明をし、コメントなどの指摘があれば解決した上で委員会本番に臨むだろう。そうすればサプライズのない委員会となるだろう。
もしあなたの製品開発の組織が意思決定にあまりにも時間がかかっているようであれば、製品委員会を設置することを検討するといい。そうすれば、このひとつのミーティングのおかげで他の多くの会議を減らし、意思決定プロセスは共有された情報に基づき、透明性のある、タイムリーなものすることが期待できる。