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How To Create Products Customers Love

第17章 プロダクトマネジメントのためのペルソナ

第17章 プロダクトマネジメントのためのペルソナ
ターゲットユーザーを理解する

プロダクトマネジメントというのは、要は、何かを選択すること、これに尽きる。どの市場機会を追求するべきか、解決するべき課題はどれか、どんな機能がいちばん大きな価値につながるのか、製品化までの時間との折り合いをつけるために最適なポイントはどこか、どの顧客がいちばん重要なのか、といったことを決めるのである。すべてにわたって正しい選択をすることはできなくても、その多くで正しいものを選択しなければ、製品を成功に導くことはできない。

難しい決定をするのに役立つ手法の中でも私が気に入っているものの 1つに、ペルソナ (ユーザープロファイル) がある。これは、ユーザーや顧客にインタビューして、製品のユーザーになりそうな人々を分類し、それぞれの種類の人々を理解することによって、重要な気づきを捉えようとする手法である。ペルソナとは、架空の人物像を言葉で表現したものだが、その特徴 (特に、行動パターン、態度、何を目指しているか) を備えた現実にもいそうなユーザーの姿でもある。

この手法は、1998年に、アラン・クーパー (Alan Cooper) 「コンピューターはむずかしすぎて、使えない!」(山形浩生訳、原題は The Inmates are Running the Asylum) の中で初めて紹介されたものだ。この本は、私が最高に気に入っている 1冊だ。プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアといった人たちにとってはバイブルとも言える傑作なので、もしまだ読んだことがないなら、ぜひ読んでほしい。

みなさんの会社やチームでも、デザイナーは、デザインの作業ですでにペルソナを使っている可能性が高い。私が出会ったデザインチームのほとんどがこの手法を使っていたので、デザインの世界はすでにこの手法を取り入れているようである。ペルソナでは何が重要かについては、デザイナーそれぞれの考えがあり、手順通りにきっちりやる人もいれば、そうでない人もいる。でも、私が見る限り、彼らはみんなそれぞれよくやっている。

また、マーケティング担当者も、宣伝や広告キャンペーンを展開するためにペルソナの手法を使っている可能性がある。その使い方はデザイナーのやり方とも似ていて、どちらも有効なやり方である。ただ、マーケティングでは目的がちょっと違うので、まったく同じ使い方ではない。マーケティング担当者は、ターゲットとする顧客に語りかけ、彼らの感情に訴えかけるためにいちばん効果的な方法を見つけようとしている。一方、デザイナーがいちばん気にしているのは、ユーザーが何を望んでいて、インターネット上でどう行動しているのか、といったことなのだ。

プロダクトマネージャーにとっても、こういうペルソナの使い方はすべて、ものすごく役に立つはずだ。

ペルソナは本当に強力な手法なのだけれど、残念なことに、製品のアイデアを見つけ出して製品を定義する作業がかなり進んでからでないと導入されないことが多い。本当は、もっと早い時点からペルソナの定義を始めるべきなのだけれど。これはよくデザイナーにやってもらうのだが、そもそも、デザイナーを製品開発の作業に参加させるのが遅すぎることが多いのだ。

ペルソナという手法の本当の潜在力を引き出すためには、ペルソナを創り出して優先順位を決める作業に、中でもペルソナを特定するためにユーザーにインタビューしたり調査したりする場面では、プロダクトマネージャーが深く関わる必要がある。ペルソナは、プロダクトマネージャーとインタラクションデザイナー、そして運よくそういうものがあるなら、ユーザーリサーチチームとの共同作業によって創られるべきものだ。ただ、どうやるにせよ、この仕事をだれかに任せてはしまってはいけない。プロジェクトマネージャーは、製品の使用感テストのすべてに立ち会う必要があるのと同じ理由で、すべてのユーザーインタビューに参加する必要がある。プロダクトマネージャーは、できるだけ多くのユーザーや顧客と話すことで、対象とするユーザーを深く理解しなければならない。

私は、いつも、プロダクトマネージャーにはペルソナを定義する作業に積極的に参加するように勧めている。そして、できるだけ早いうちにペルソナを定義してしまうことだ。

ペルソナに関しては、デザインの専門家が幅広い内容について語っているので、この本では。プロダクトマネージャーと関連する問題を除いては、詳しく繰り返すつもりはない。詳しい内容は、アラン・クーパーの「About Face 3-インタラクションデザインの極意」(長尾高弘訳、原題は About Face 3: The Essentials of Interaction Design) を見てほしい。

プロダクトマネジメントのための手法としてペルソナを活用することには、たくさんのメリットがある。

• ペルソナは、重要なこととそうでないことの優先順位を決めるのに役に立つ。ある製品リリースでは、メリーと名付けたペルソナに狙いを定めたとすると、いろいろな機能をどうするかについては、メリーにとって絶対に必要なものなら取り入れ、サムと名付けたペルソナにとって絶対に必要なものならば、その機能は外す。おわかりのように、だれのための製品かを決めるのが大事なのと同じくらい、ターゲットから外れているユーザーはどういう人かを判断することも重要だ。あらゆる人々を満足させる製品にしようというのは、実によくある間違いであり、結局はだれも満足させることができない。ペルソナを使ったアプローチは、こういう間違いを防ぐのに役に立つはずだ。
• 製品開発チームがいちばんよくやってしまう間違いとしては、自分たちを顧客と混同するというのも挙げられる。私がとにかくペルソナを気に入っているのは、よくありがちなこの問題に光を当てるのに役立つからだ。
• 多くの製品には、実際にその製品の操作をするさまざまなタイプのエンドユーザー、その上司、システム管理者など、いろいろな種類のユーザーがいる。そのため、それぞれの種類のユーザーのための機能を何か入れようと思ってしまいがちだ。が、また繰り返すが、それだと混乱して収拾がつかなくなるだけだ。これはデザイン上の問題でもある。とにかく、ペルソナは、ユーザーの種類それぞれに優先順位を付けるのに役立つことも多いし、どこで別々のユーザーインターフェースを用意したらいいかを判断する手掛かりとなることもある。
• だれのための製品か、彼らはどんなふうにそれを使うのか、なぜ彼らはその製品に関心があるのか、といったことを製品開発チームの全員に説明するとき、ペルソナは実に便利なツールである。
• もっと一般的な話として、製品理念とまったく同じように、ペルソナもまた、共通のビジョンのもとにチームを結束させることができるという効果がある。製品をリリースするまでの間には、文字通り何千もの細々した課題に取り組まなければならない。おそらく、プロダクトマネージャー (あるいはデザイナー) は、そのすべてに対応することはできない。もし、プロダクトマネージャー、デザインする人、コードを書く人、開発をする人、テストをやる人のみんなが製品理念やペルソナを頭にたたき込んでいれば、未解決の問題に出くわしても、彼らに正しい判断ができる可能性はずっと高くなる。

このようにいろいろなメリットがある一方で、気をつけなければならない落とし穴もある。

• ペルソナを創ったはいいが、次の段階、つまりどのペルソナを重視するべきかという難しい選択をやらないままのチームがある。この製品は万人のためのもの、などと言ってはいけない。自分をごまかすだけになるからだ。この優先順位付けは、多くのプロダクトマネージャーにとって相当に難しいことだが、私も、プロダクトマネージャーには、製品リリースごとにいちばん重要なペルソナだけに集中してもらうように心がけている。でも、そのリリースは、その他の人にとっては価値がない、使えない、ということではない。プロダクトマネージャーがそれぞれのリリースで優先しなければならないのは、ターゲットとなる特定の 1種類のユーザーのためにいいものを作ることなのだ。
• 時として、ユーザーについての思い込みや固定概念をもとにペルソナを創るだけで、現実のユーザーと話す時間も取らず、ペルソナとして設定された人々が実際に世の中に存在するのかを確かめないチームもいる。これには何度も驚かされてきた。あまりにもそういうことが多いので、私自身、最初の印象の段階ではあくまで仮想のものと考えることにして、現実のユーザーと話をするまでは、ユーザーに関する判断をしないでおくことにしている。ペルソナを創れば、現実のターゲットユーザーと顔を合わせて話さなくてもいいとか、現実のユーザーでデザインをテストしなくて大丈夫、ということにはならないのだ。
• プロトタイプのテストのためにユーザーを集めるときに、いちばん重要なペルソナのユーザーだけでテストするべきなのか、とよく聞かれる。当然、いちばんのターゲットである人々満足させる製品かどうかを確認しなければならない。でも、その製品はそのペルソナに当てはまる人だけ使ってくれればいい、なんて贅沢も言っていられないだろうから、そのペルソナから外れる人ともテストしておきたいところだ。というわけで、プロトタイプテストのための人集めでは、ユーザーとして想定される人々をある程度幅を持って集めるのがいいだろう。

参考事例
具体的なペルソナの例は、次のウェブページで閲覧できる。
www.svpg.com/examples

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