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How To Create Products Customers Love

第28 ベンチャー企業のプロダクトマネジメント

第28章 ベンチャー企業のプロダクトマネジメント
とにかく製品を見つけ出すことに尽きる

私は、この何年かで、かなりの数のベンチャー企業と仕事をしてきた。たいていはアドバイザーの立場だったが、もっと直接的に関わった仕事もある。ベンチャービジネスというのは、本来、新しい製品を創り出すことに尽きるので、プロダクトマネージャーが仕事をするにはもってこいの場である。だから、私は、ベンチャーで仕事をするのが大好きなのだ。でも、一般にベンチャーが最初の製品を創り出すやり方は、えらく非効率だと思う。そのために、いいアイデアだったはずのものの多くが、開発資金を得ることができなかったり、製品化までこぎ着けることができなかったりしている。

そのやり方というのは、だいたいこんな感じである。アイデアを持っている人が、多少の創業資金を得て、まずはエンジニアを雇い、何かを作り始める。創業者 (ファウンダー) は、自分が作りたいものが何かをしっかり理解しているので、たいていは、創業者がプロダクトマネージャーなって、場合によってはプロダクトデザイナーも兼務する。エンジニアリングチームはそこから作業を始める。会社は、通常、外部のだれにも知られないようにして作業を進めるので、顧客とのやりとりはほとんどない。そして、エンジニアリングチームが何がしかのものを作り上げるのに、当初の想定よりもずっと長くかかることになる。というのは、要件とデザインをその場その場で決めていくことになるからだ。

6ヶ月くらい経つと、エンジニアは、アルファ版とかベータ版といった類のものを仕上げるが、この時になって、初めてこの製品を披露することとなる。でも、この最初のお披露目がうまくいくことはめったにない。それで、エンジニアリングチームは、ボールをパスすることを諦めて、自分たちでボールを持って走り出す。そのスピードたるやすさまじい。というのも、エンジニアリングチームは、可能な限りのスピードで製品を作り上げようとするからだ。で、資金はどんどん減っていくけれど、製品はまだできない。もしかしたら、会社は、追加資金を調達して製品をまともなものにするチャンスを手にするかもしれないけれど、だいたいそうはならない。多くのベンチャーは、コストの安い海外の会社にエンジニアリングを外注することで時間を稼ごうとするが、開発のプロセスは同じままなので、また同じ問題にぶつかってしまう。

さて、ここで、新しい製品を作り上げるためのまったく違ったアプローチを紹介しよう。劇的にコストを抑えることができて、望んでいる結果にもっていく確率がずっと高くなるやり方だ。創業者は、まず、プロダクトマネージャーとインタラクションデザイナーとプロトタイパーを雇う。デザイナーがプロトタイパーを兼任できることもあるし、創業者がプロダクトマネージャーになれることもあるけれど、いずれにしても、プロダクトマネージャー、インタラクションデザイナー、プロトタイパーの 3つの機能を配備する。そして、このチームは、いち早く製品を見つけ出すための作業を始める。

この作業については、第18章の「製品仕様はどうあるべきかを考える」で詳しく説明しているので、ここでは重要な点を 2つ挙げておこう。

1. 最終的なユーザーエクスペリエンスを疑似体験できるハイフィデリティプロトタイプ (製品の試作品) を作ることが肝要である。
2. この製品のデザインを、実際のターゲットユーザーといっしょに検証する必要がある。

このやり方では、文字通り何十ものバージョンのプロトタイプを作ることになる。プロトタイプは、時には小さな改良をして、時には大幅な変更を加えながら、日々進化していく。ここで肝心なのは、これを繰り返すたびに、確実に売れる製品のプロフィールに近づいていくことだ。

この製品を見つけ出す作業には、ふつうは数週間から数ヶ月かかる。この作業が終わった時点では、次のような状態になっているはずだ。
(a) ターゲット市場で検証済みの製品のプロフィールができあがっている。
(b) 充実したプロトタイプができあがっている。このプロトタイプは、エンジニアリングチームが作業を進めるための本物そっくりの仕様ともなる。
(c) どこに向かおうとしているのか、売れる製品にするためにはこの後何をすればいいのか、ずっとよく理解できている。

この状態のところにエンジニアリングチームを登場させたならば、彼らは、とてつもなく有利な立場で作業を始めることになるだろう。どんな製品を作る必要があるのかをしっかり理解できていて、確実な仕様が用意されているからだ。エンジニアリングチームが、他のどのやり方よりもずっと速いスピードで、質の高い実装をやってのけることがわかるだろう。

それなら、どうしてすべてのベンチャーがこの方法でやらないのだろうか。それは、私たちのいるようなエンジニアリング主導の業界では、エンジニアリングから始めてしまうのが至極当たり前なことであるからだ。けれども、どんなベンチャー企業であっても、すべては正しい製品から始まるということを認識する必要がある。だから、順番として最初にやるべきことは、50万ドルやらの創業資金を使い果たしてしまう前に、何が正しい製品であるのかをまず理解することなのである。

このやり方は、ベンチャー企業だけでなく、もっと大きな会社にも当てはまる。違いは、ベンチャー企業ではふつうは無理だけれども、大きな会社では、価値のある製品にたどりつくまでに、何度も検証と変更を繰り返す余裕があるという点だ。でも、余裕があるからといって、大きい会社によくあるような非効率さの言い訳にはならない。

だから、次にベンチャービジネスを始めるときや新しい製品を開発するときには、ここで紹介したアプローチを試してほしい。

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