お待たせ致しました。
パート1人材編の最終章をお届けします。
この話は、プロダクトマネージャーにかかわらず、組織の中で上司とうまくつき合う際に役立つと思います。
次回からは、パート2プロセス編です。引き続きお楽しみください。
なお、ご意見(訳がおかしい等も大歓迎です)などがあれば、
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までお寄せ頂ければ幸いです。
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第10章 上から降ってくるものをうまくさばく
10のテクニック
特に大企業のプロダクトマネージャーからの質問で多いのは、上司とうまくつきあうにはどうすればいいか、というものだ。彼らは上司に対して不満を抱えている。上司を嫌いだというのではなく、上司の言うことに振り回されているように感じているのだ。毎週のように、先週とは違うことを言って一貫性のない指示を出すので、二歩進んでは一歩下がるような状態になる。特に、大企業では、影響力のある人や口出しする人が多すぎて、社内をまとめて製品を市場に出すという 1つの目標に向かわせるには、やたらと時間がかかり、本当に厄介だ。
上司の指示がコロコロ変わるのには、たくさんの理由がある。プロダクトマネージャーとその直属の上司だけでなく、そのまた上の上司、さらにその上に控える人たちも含めて、意見を持ち寄って、考え方を共有する必要があるのだ。また、市場での競争というプレッシャー、技術の変遷、M&A、事業の展開、予算や人員の制約など、上司からの指揮系統の外側にある要因にも影響される。こうした要因の1つ1つが、直接的にも間接的にも、製品計画に影響を与える可能性があり、また、実際に製品計画を左右することが多い。これは、大企業で働くことの代償だ。でも、大きな会社ならではのリソースを何とかしてうまく利用することができれば、市場に劇的な影響を与えることができるだろう。これには、小さい会社ではとても太刀打ちできない。
中小企業や新興企業にもこういう問題はあるが、大企業がことのほか手を焼いているように思う。私は、これまで、大所帯から小さなチームに至るまでさまざまな組織で製品開発に関わり、製品開発のあらゆるポジションを経験した。こうした経験から、この問題について役に立ったテクニックを集めてみた。前もってお断わりしておくが、これらの問題は根が深く、消えてなくなることはないだろう。どう頑張っても、問題を軽減するぐらいしかできない。ここでは、そのための方法をご紹介しよう。
プロダクトマネージャーの頭の上から降ってくるものにうまく対処するための10のテクニック
1. 変更を予測して計画せよ
イライラの原因となるようなさまざまな反復作業、やり直し、計画変更のために払わされる代償を表すために、私は「かき回す (churn)」という言葉を使っている (訳注:第5章参照)。かき回したりかき回されたりすること完全になくすことはできないが、努力を怠らなければ減らすことはできる。まずは、かき回す・かき回される、という状況をしっかり認識し、それを測ることから始めよう。その方法はいろいろあるが、いずれにせよ、1週間、1ヶ月、3ヶ月といった期間のうち、自分の時間が将来の進捗を管理することにどのぐらい費やされたかを記録しみてほしい。そうすれば、どのぐらいかき回したりかき回されたりしたかがはっきりとわかるだろう。これは、その先、どのぐらいかき回したりかき回されたりするかを予測して計画を立てるのに、大いに役立つ。プロジェクトの予定を立てるときには、次のようなことを知っておいてほしい。計画の変更に対応して必要な調整をするために、それなりの時間を割かなければならないこと、そして、そのために費やされる労力の中には、報われないものもあることを。これを頭に入れておけば、ストレスをコントロールし、より正確な予定を立てやすくなり、改善すべき課題を見極めやすくなるだろう。
2. コミュニケーションのスタイルと頻度
プロダクトマネージャーが十人十色であるのと同じように、その上司もさまざまだ。どんな細かいことでも逐一報告してほしい人もいれば、自分の助けが必要となるくらいの大問題でもない限り煩わされたくない人もいる。紙での報告といっしょに詳しい参考資料も要求する人もいれば、立ち話で手短に報告してくれれば十分という人もいる。上司がどういうやり方を好むのかを判断し、たとえそれが自分の好み合わなかったとしても、できるだけ上司のやり方に合わせるようにしよう。
3. 会議の前の根回し
製品開発をやる企業では、しょっちゅう会議をやっている。私に言わせれば多すぎるのだが。でも、影響力のある人や関係者が社内に多ければ多いほど、全員が理解を共有するために、途中途中で確認やレビューのための打合せをちょくちょくやらなければならなくなる。打合せを効率的にやる方法はいくらでもあるが、私がここで重要なポイントとして挙げておきたいのは、正式な会議の前に、事実上関係者に話を通しておくことだ。つまり、本番の会議をやる前に、主な関係者のところに直接出向いて、予備知識を仕込み、彼らの意見も聞いて、全員そろっての会議が実際に始まるまでに彼らを話に引きずり込んでしまうのだ。これがうまくいけば、本番の会議は、番狂わせが起こるようなこともなく短時間で済むだろう。ただ、根回しをやったにしても、やはり、正式な会議には重要な狙いがある。それは、参加者の 1人1人が、自分以外の参加者について、それぞれが実際に関わっているという事実を自分の目で確認することだ。
4. 問題だけでなく提案も
ほとんどの上司は、何が問題かだけでなく、どうやってそれを解決するかについての提案も聞きたがっている。問題の大きさにもよるが、理想的なのは、複数の解決策を検討した上で、いちばんふさわしいと考えているものとその理由を説明するのがいい。
5. 上司をうまく使え
上司が大いに力になってくれる場面がよくあるにもかかわらず、多くの部下はうまく使いこなせていない。たとえば、あなたはある問題を解決しようとしているとしよう。分析も済んで、解決策を提案する準備もできている。でも、重要な関係者の中に、上で説明したような事前の根回しの時間を割いてくれない人がいる。こんな場合、あなたが無理でも、あなたの上司ならその人に会って話せることもある。そこで、上司に根回しの目的を伝えて必要な資料を渡し、根回しをやってもらおう。必要な準備はあなたがやるしかないが、それさえやれば、あなたの上司はたいていは喜んで力になってくれるだろう。
6. 周到に準備せよ
プロダクトマネージャーがやってしまう大きな間違いの 1つに、十分な事前準備をしない、というのがある。上司というのは、たいてい、考え方や計画の中のほころびを見つけるのが得意で、しかもたちまち見つけ出してしまうものだ。それが彼らの仕事なのだ。その厳しいチェックをくぐり抜けるには、きちんと下調べをしておくことだ。問題点を完全に理解し、準備を整えておこう。
7. メールは短く
プロダクトマネージャーがよくやってしまうもう 1つの間違いは、上司に長くて詳しいメールを送ってしまうことだ。しかも、読んでくれない、返事がない、と怒っている。でも、上司というのは、1日に何百通ものメールを受け取っているかもしれない、ということを理解する必要がある。だから、彼らは、短くて要点だけのやりとりを望んでいる。上の人間であればあるほど、その人へのメールは短くするべきだ。追加情報を出すのは構わないが、数行以内にまとめよう。
8. 必要なのは意見ではなくデータと事実
自分より上の人間、特に経営陣と話すときにやるべきことは、データと事実を伝えることだということを忘れてはならない。Netscape の元CEOのジム・バークスデール (Jim Barksdale) が困難な決断を迫られたとき、すばらしい言葉を残した。「もし、わが社がだれかの意見従ってこの決定をするのであれば、私の意見に従うべきだ」。きちんと準備をし、データを集めて整理した上で提案をするならば、それは、意見ではなく事実に基づいた明快なものとなるに違いない。
9. 製品のアイデアを説いて回れ
プロダクトマネージャーの主な仕事に、製品のアイデアを社内中で説いて回ることがある。でも、私がそう言っても、そこまで真剣にこの仕事に取り組んでいるプロダクトマネージャーは、ごくわずかしかいないようだ。もしこの教化がうまくいけば、その後の仕事、特に、社内の他のグループとの仕事がやりやすくなる。社内のみんなが、製品開発チームのやろうとしていることを理解して、会社にとって有望な製品になると期待してくれるようになれば、みんな、何とかしてプロダクトマネージャーに力を貸そうとするだろう。
10. 手のかからない社員であれ
素直にそうだとは認めないだろうが、ほとんどの上司が密かに思っていることがある。彼らは、本当は、手のかからない部下であってほしいと思っているのだ。手のかかる部下は、割に合わないぐらいに上司に時間を使わせ、世話を焼かせるのである。部下の生産性を高めることは上司の責任だが、1日の時間は限られているし、手のかかる部下の面倒を見ていると他のことができない。自分の上司を相談相手にするのはやめよう。そういう相手は、組織上の上下関係がない人から探そう。そして、上司に無駄に時間を使わせないように気を配ろう。上司はそういう気配りを評価してくれるはずだ。
多くのプロダクトマネージャー、特に大企業のプロダクトマネージャーは、イライラを募らせている。もしみなさんがそうであるならば、ぜひこれらのテクニックを試してみてほしい。問題をなくすることはできなくても、明らかに今までとは違ってくることを実感してもらえるのでは、と思っている。