Inspired日本語版

How To Create Products Customers Love

第11章 製品の市場性評価


この第11章から第2編「プロセス」に入ります。この「プロセス編」では、最先端のインターネットソフトウェア企業において、顧客をわくわくさせ、売れる製品を繰り返し「見つけ出し」、具体的な形に作り上げていくために用いられているプロセスやベストプラクティスを説明していきます。

第11章は、プロダクトマネージャーの役割のひとつ「製品の市場性評価」について説明します。第1章では、プロダクトマネージャーの役割について以下のように書かれていました。少し長いですが、大枠を確認するために引用します。

プロダクトマネージャーの主な任務は二つある。製品の市場性を評価することと、開発すべき製品を定義することである。通常、新しい製品のアイデアは至るところから飛び出してくる。たとえば、経営陣、顧客との議論、使用感テスト、製品開発チーム自身、営業担当者、業界関係者などだ。しかし、次に、誰かがそのアイデアを吟味して、さらに先に進める価値のあるものかどうかを決めなければならない。この目利きをやるのが、プロダクトマネージャーである。(多くの企業では、これを市場要求仕様(MRD, Market Requirement Document)という書類にまとめるが、この本では、後ほど、その軽量版である市場機会評価(Opportunity Assessment)について説明する。)

十分に市場性があって、自社でそのアイデアを実現できる可能性が高いと判断されれば、その次には、誰かが、そのアイデアの具体的な形、つまり、どういう製品にするのか(必要とされる特性と機能、ユーザーエクスペリエンス、発売の基準など)を「見つけ出す」必要がある。ここで、再びプロダクトマネージャーの出番となる。この任務は、プロダクトマネージャーの仕事の核心部分である。こうして形になっていく仕様は、製品要求仕様(PRD, Product Requirement Document)、あるいは、製品仕様、機能仕様などと呼ばれる。ここで、私は、紙ベースではなく、プロトタイプに基づく軽量なアプローチを勧める。しかし、肝心なのは、その仕様書が記述すべきことは、開発されるソフトがどういう機能を備えて何をするものかということであり、どのように動くかではないということだ。

どうぞお楽しみください。

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第11章 製品の市場性評価

解決すべき問題を特定する

新しい製品が登場するチャンスは、あらゆる市場の至るところにある。成熟した市場であっても例外ではない。というのも、何が実現可能であるかが絶えず変化しているからだ。新しい技術が次から次へと生まれ、競争相手も入れ替わっていく。そして、会社も、新しい才能やアイデアを持った新たな人間がやって来ることで変わっていく。

プロダクトマネージャーは、製品の市場性を評価することで、何が有望で何がそうでないのかをすばやく判断できなければいけない。つまり、人の心を動かすことができそうなものは何か、どれを製品化するのがいいか、他社に任せて自分たちは手を出さない方がいいものはどれか、製品化にはまだ早いのはどれか、というような判断をするのである。

多くの会社では、製品化の指令は経営トップから出される。時として、「これは絶対に製品化しろ」というような感じで言われることもある。また、マーケティング部門が何を製品化するかを決める会社もあれば、エンジニアリング部門が製品のアイデアが出すという会社もある。

残念なことに、製品化するかどうかを直感で決めてしまうことがあまりにも多い (さらにまずいのは、資金を出すから開発してほしいと大口顧客から依頼された「特注品」をもとにして、製品化が進められる場合だ)。

よくあるのは、営業担当者かマーケティング担当者が、MRD (Market Requirements Document、すなわち、市場要求仕様) の類を作る場合だ。これには、解決すべき問題が書かれていて、また、普通は、ビジネス的に見て製品化が妥当だとする根拠も説明されている。少なくとも理屈の上では、MRDとは、製品の市場性を記述するためのものであって、ソリューション (何を製品化するか) を書くものではない。それなのに、実態は、多くの会社が MRD を作っていないか、作っていたとしても、製品の仕様が書かれたものを間違って MRD と呼んでいるだけだ。本来の MRD を作成している会社でも、PRD (Product Requirements Document、すなわち、製品要求仕様) と同じような問題を抱えている。それは、書くのに時間がかかりすぎる、書いてもちゃんと読んでもらえない、本来書かれるべきことが書かれていない、といったことだ。

その結果、多くのプロダクトマネージャーが MRD を完全に無視してしまう。でも、何の準備もなくいきなり製品化に取りかかるのは問題だ。一般論として、飛ぶ前にはよく観察したほうがいい。難しいのは、この観察を、すばやく、簡略化した形で、それでいながら効果的にやることである。

製品の市場性を評価することは、プロダクトマネージャーの仕事の中でもものすごく重要なものだと思う。適切な市場性評価をする目的は、次のどちらかである。
(a) ボツにした方がいいアイデアであることを最終的に証明することで、会社が市場性の低いものに時間とお金をつぎ込まないようにすること。
(b) 市場性が高いと判定されたものについて、製品開発チーム一丸となって取り組むこととして、また、成功するために何が必要なのか、どうやってその成功を確実なものとするかを理解すること。

幸いにも、効果的な製品の市場性評価をやるのは、それほど難しいことではない。私のやり方では、プロダクトマネージャーに、10個の基本的な質問に答えてもらうことにしている。

1. 製品化によって具体的にどんな問題を解決するのか? (バリュープロポジション)
2. だれのためにこの問題を解決しようとしているのか? (ターゲット市場)
3. 市場の大きさは? (市場規模)
4. 製品化の成功をどうやって評価するのか? (指標、収益戦略)
5. 現在、他に競合する製品はあるか? (競合の見通し)
6. なぜ当社がこの製品化をやるのに最適なプレーヤーと言えるのか? (差別化要因)
7. なぜ今なのか? (市場投入の時期)
8. どうやって製品を市場に出すのか? (市場投入戦略)
9. 成功のために絶対に必要な要素は何か? (ソリューションの要件)
10. これらを前提とした上で、最終的な提案は何か?(やるかやらないか)

この質問リストの中では、実際の問題の解決方法 (ソリューション) には触れていないことに注意してほしい。これは意図的なものであり、とても大切なポイントだ。製品の市場性を評価するときは、解決すべき問題だけを議論しなければならない。頭に浮かんでいる特定のソリューションについては考えないことだ。ソリューションについては、その後の段階で大部分の時間を割くことになるが、まずこの段階では、解決しようとしている問題について明確に、そして簡潔に考えなければいけない。

よくあるのは、プロダクトマネージャーが、解決すべき問題とソリューションを切り離さずにいっしょにして考えてしまうことだ。そして、そのソリューションで行き詰まると、製品化そのものまであきらめてしまう。これは、「汚れた風呂水と一緒に赤ちゃんを捨ててしまう」、と言われる古典的な失敗例である。

たいていの場合、いちばん難しいのは、市場性評価の最初の質問にあるバリュープロポジションである。こう言うとだいたい驚かれる。どうやら、この質問がいちばん簡単だと思われているようだ。でも、ためしに、製品がどういう問題を解決しようとしているのか、プロダクトマネージャーに聞いてみるといい。すると、たいていは、解決しようとしている問題について簡潔に、明瞭に、説得力をもって説明してくれるのではなく、製品の機能や性能をだらだらと並べ立てられる羽目になる。

もう 1つの難しい質問は、市場規模の評価だ。これについては、業界アナリスト、業界団体、社内の財務担当者などに意見を聞くこともできるし、自分で数字を積み上げてみることもできる。ただ、控えめな数字で評価することと、すべての製品の市場が数千億円規模である必要はないということを忘れないように。

市場投入の戦略は、製品をどう売り込むかを説明するもので、特に大切だ。その戦略は、製品の要件に大きな影響を与えるだろう。

製品化成功の要因、すなわち、ソリューションの要件は、市場性の調査で特定されたニーズや要件を反映している。繰り返すが、ここでは。どんな製品を作るかを考えるのではなく、市場ニーズや製品化を左右する要素や製品化の制約となるものを明らかにしようとしているのだ。たとえば、もしこの製品がシステムインテグレーターを通して販売されるのであれば、この手のパートナーは、製品の拡張性について要求を出してくるはずだ。また、ブランド戦略や業務提携について何か要求してくるかもしれない。

製品を生み出す組織がやるべきこととは、優れた市場機会を追求することと、優れた製品による解決方法 (ソリューション) を提供することに尽きる。新製品の可能性はどこにでもある。重要なのは、プロダクトマネージャーが新しい市場機会をきちんと評価して、会社にとっていちばん有望なものを見つけ出すことができる、ということである。また、同時に重要なのは、有望でないアイデアに多くの時間とお金がつぎ込まれてしまう前の段階で、それを見極めてボツにしてしまうことだ。製品化すべきものを正しく選ぶことは、会社が行う意思決定の中でもいちばん重要なものなのである。

さて、この次に重要となるのは、経営陣が製品の市場性評価の結果について報告を受けて議論することと、会社がその市場機会に応えて製品開発を進めるかどうかを決定することだ。製品化すると決まれば、これから取り組むべきことは何か、成功のためには今後何が必要になるかをずっとよく知ることができるはずだ。

では、もし、好むと好まざるとにかかわらず、製品化することにしたからさっさと製品開発にとりかかれ、とCEO から言われたら、何をすべきだろう? まず、特定の製品の開発には、時として戦略的な事情があることは理解しておかなければならない。市場では成功しそうもないとしても、その製品開発を進めなければならないかもしれない。そういう場合であっても、あまり時間をかけずに簡易版の製品市場性評価をやるといい。その製品について、もっといろいろなことを知ることができるからだ。そこでわかったことを報告することで、CEO の考えが変わるかもしれない。そうはならなくても、少なくとも、自分の目標をはっきりさせることができるだろう。

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