第12章 製品を見つけ出す
正しい製品を定義する
ソフトウェア製品を開発するプロジェクトは、まったく別の 2つの段階に分けることができる。作るべきものを決める (正しい製品を定義する) 段階と、それを作る (正しくその製品を作り上げる) 段階である。最初の段階でいちばん重要なのは、製品を見つけ出すことであり、2番目の段階は、ひたすら実行である。
製品を見つけ出す段階では、新しいアイデアを広く積極的に求め、たくさんのユーザーや顧客と話し、新しい技術をどんなふうに活用できるかを聞いて回り、製品コンセプトに肉付けをしてこれを検証し、その製品全体の方向性について短期的、長期的な視点からじっくり検討する。結果的に市場で勝てる製品となるどうかは、デザインと機能の絶妙な組合せを見つけられるどうかにかかっている。
ただ、いったん製品の仕様が決まり、エンジニアリングチームが作業を始めたら、製品開発チームは完全に頭を切り替えなければならない。今や実行あるのみだ。製品を作り、テストし、市場に送り出すのだ。この段階では、全員を作業に集中させ、否応なく起こってしまう数え切れないほどの問題を追いかけ、それを大急ぎでやっつけることに時間をつぎ込むこととなる。買収やライバル企業のニュース、社内の組織改正や経営陣の交代などは、何もかも仕事の邪魔だ。プロダクトマネージャーがやるべきことは、しかるべき時までに製品を世に送り出せるよう、製品開発チームにスケジュールどおりに作業してもらうことである。
実際のところは、多くの製品開発チームではこの頭の切り替えができていない。できたとしても、切り替えるのが遅すぎるのだ。ひどいときは、品質保証 (QA) の段階に入る頃だったりする。頭を切り替えるどころか、プロダクトマネージャーはまだ新しいアイデアを探し続け、経営陣はいまだに製品仕様を変更できると思っていることもある。結果として、まわりくどい言い方になるが、プロジェクトは「かき回される」のである。つまり、製品仕様の大幅な変更が続けられ、エンジニアや製品開発チームの他のメンバーに衝撃を与える。その結果、製品のリリースを延期したり、機能をいくつか省いたり、品質を犠牲にしたりする。これらがすべて起こる場合もある。
それでも、優秀なプロジェクトマネージャーがついているという幸運に恵まれたならば、開発業務の間じゅう、なんとかすべてがスケジュールどおりに進むように助けてくれるかもしれない。だが、たとえそうだとしても、プロダクトマネージャーとしては、頭の切り替えが必要だということをしっかり頭にたたき込んでおかなければならない。そうでないと、プロダクトマネージャーのせいで製品を市場に出せなくなる、という事態がいとも簡単に起こってしまうだろう。
ただ、好き嫌い、得手不得手には個人差があると認めることが大切だろう。生まれつきひらめき型の人間 (自由な発想で創造するほうが好きな人) は、実行段階に入ったら、そういう衝動は努めて抑えなければならない。逆に、生まれながらのプロジェクトマネージャー型人間で、やるべきことをこなしていくのが好きなタイプの人は、戦略的思考や発案力を身につけなければならない。とにかく、いちばん大切なのはみんなに愛される製品を作ることだ、ということを忘れてはならない。
さて、私が見つけたテクニックで役に立つものを 1つご紹介しよう。それは、常に、並行して 2つのバージョンで作業を進めることである。つまり、バージョン1 のエンジニアリングが始まって、プロジェクトが実行段階に入ったら、すぐにバージョン2 の発案作業も開始する。新しいアイデアを生み出す努力は決して絶やさないようにするのだ。あるバージョンがエンジニアリングの段階に入ったら、発案力は次のバージョンに振り向けよう。
ここで 1つ忠告したい。このアプローチを使うからといって、進行中のプロジェクトの作業を邪魔しないように気をつけてほしい。
全体的に見て、次のバージョンという創造力のはけ口があるのは、いいことだと思う。今度経営陣のだれかが顔を出して、新たに大がかりな変更を要求してきたとしても、開発の真っ最中の製品に手を加えるのではなく、発案段階にある次のバージョンがすでに手元にあるので、そのバージョンで新たな要求を調査する作業を進めることができる。
あまり簡単そうに言うつもりはないが、規律をもってやればうまくいくと信じている。発案力 (売れる製品のアイデアを発案するためのスキル) と実行力 (アイデアを実際に顧客の手元に届けることを実現するためのスキル) の両方を高めることは、絶対に必要である。